診断05 五臓

五臓

漢方では、こころは五臓に存在します。西洋医学では、精神は脳にあると考えていますが、漢方では、五臓が精神の作用をもっていると考えています。つまり、五臓が病むと心の病気を引きおこすのです。五臓には心・肝・脾・肺・腎がありますが、これは西洋医学でいう心臓・肝臓・脾臓・肺臓・腎臓さしているのではなく、体内でおこなわれる生命活動をするものとして考えられた抽象的な概念です。次には五臓の肉体的作用をみると、確かに同じような機能をさしている点もありますが、こころまで五臓が受け持っている点がまったく異なります。

五臓の精神・肉体作用

精神作用
心は、感情や思考・意識を正常に保ち、精神・知能・意識活動の中心となり、全体をコントロールして調和をはかります。心が虚弱化(心虚という)すると、勇気をもてず、消極的になり、不安になったり、臆病になり、また夢を見たり不眠になったりします。反面、機能が亢進(心熱、心火という)すると異常に興奮してはしゃぎ、落ち着きがなく、発作的な行動をとるようになります。
肉体作用
血を全身にめぐらし、すべての組織や器官に栄養素を与え、舌の機能を維持します。

精神作用
肝は、常識や礼節をわきまえ、理性を働かせ、物事を冷静に判断・処理したり、精神や感情をのびやかにします。肝が虚弱化(肝虚という)すると感情と理性のギャップに悩み、気持ちが沈んでゆううつになったり、意欲がわかなかったり、決断できなく迷ったりします。反面、機能が亢進(肝熱という)すると、こうでなければならないという完全主義や教条主義になったり、何事も自分が一番と考え、人に任せなかったり、自分の考えにそぐわないことが目につくと、イライラしておこりっぽくなったりします。
肉体作用
血を蓄えておく貯蔵庫の役目をし、必要に応じて血を組織に送り出し、筋肉や目の活動を維持します。身体や内臓のはたらきをスムーズに機能させ、気や血のコントロールをし、飲食物の消化・吸収を補助します。

精神作用
脾は、いろいろなことを考える思考力や物事に対して関心を向ける好奇心を養い、精神の安定や中立を保ち、五臓の調和を受け持ちます。脾が虚弱化(脾虚)すると、クヨクヨ悩み、あれこれ迷い、意欲が無く、考えに主体性が、その上考えに一貫性がなくなります。 反面、機能が亢進(脾熱という)すると騒がしく、落ちつきがなく、移り気で、気が短くパッパッとせっかちに早く済ませようとします。
肉体作用
飲食物を消化・吸収し、活動のためのエネルギーを生み出し、手足をじょうぶにします。血が漏れ出て異常な出血をしないように守ったり、内臓や器官が下がって胃下垂や脱肛になったりしないように維持する役目をします。

精神作用
肺は、物事に対して気遣いしたり、気を回したり、身体を自然と動かし、聴覚・視覚・嗅覚・触覚・味覚などの五感を受け持ち、運動能力を発揮します。肺が虚弱化(肺虚)すると、感受性に乏しく、機転がきかず、運動能力や反射神経が鈍く、注意力が散漫になったり、うっかりミスをしたりします。反面、機能が亢進(肺熱という)すると、周囲を気にばかりして、落ちつきがなく、先ざき事を心配します。
肉体作用
呼吸で得た気と、脾で吸収した食物エネルギーを全身に供給し、水分代謝の調節も待ち受けます。皮膚組織を維持し、外界からのいろいろな影響から身体を防衛し、鼻の機能を保ちます。

精神作用
腎は、信念や意思を正常に保ち、やりとおす根気や根性などの精神の強靭さをつくります。腎が虚弱化(腎虚)すると、やりとうそうする信念が弱く、根気・忍耐力がなく、守りに入るため用心深く、出し惜しんだり、警戒心も強まり、恐怖感をもちやすく、決断力が低下します。なお、腎には他の四臓と異なり、虚弱化よる仮性の熱(虚熱という)はありますが、腎熱といえるような機能亢進するようなものはありません。つまり腎は虚していく、いわば衰えるだけの臓器なのです。
肉体作用
脳髄・骨髄・関節・内臓・生殖器を成長させ、おのおのの機能を正常に保ちます。水分代謝をよくし、排尿機能を維持し、腰や筋骨、全身の運動力・活動力を高めます。 耳の聴覚機能を正常に保ち、頭皮を成長・発育させ、潤沢にします。

五臓のはたらきが変化すると、身体の面に症状があらわれるだけでなく、精神的にも五臓に由来する症状が出てきます。心・肝・脾・肺の機能亢進としている、心熱・肝火(肝熱)・脾熱・肺熱は、邪がそれぞれの臓に生じたことによる症状をいっており、機能がよくなったという事ではなく、むしろ病的な機能亢進状態をさしています。

五味は五臓を養う

食は薬。医食同源の考えのもとに、漢方では、食べ物によって味覚を5つに大別しています。これを“五味”と呼び、五味は五臓に入り、それぞれの臓器の働きを養うといわれています。しかし、そればかりの取りすぎはかえって五臓を傷つけます(五禁)。現代栄養学では、食べ物をタンパク質、脂肪、糖質やビタミンなどで考えがちですが、健康維持のためには、五味のバランスをとることも忘れないようにしましょう。